ゴジラの敵役を務めたスーツアクターがローカルヒーローに。きっかけは息子の聴覚障害⁉
コミュニケーション考える契機に
聴覚障害のある人は、後ろからのコミュニケーションが苦手です。歩いている時に後ろから声をかけられたり、自転車のベルを鳴らされたりしても聞こえません。「無視している」と誤解され、追い抜きざまににらまれることもしばしば。
守李君は、胎児の時のウイルス感染で難聴になり、右の聴覚がわずかにある程度です。4月に聾学校幼稚部から町立の小学校に進学。歩いて通学しています。そこで両親がカバーに耳マークを貼り付けました。
和宏さんと理恵さんは「きちんと伝わることが大切」と言います。実は2人とも※スーツアクターという経歴の持ち主で、かつて、ゴジラの敵役を演じたこともあるそう。なので、どう表現してどうコミュニケーションを取るか、自然と考えるのだと言います。
和宏さんは、はじめは耳マークだけを書いていました。「『あれはなんだろう』と考えてほしかった」から。注意点の追加は理恵さんの提案でした。「お友達や地域の人が守李と関わって嫌な気分をしてほしくないんです。実際に話しかけた人が『え?』って不快な顔をしているのを何度も見たので」。
伝え方は人それぞれで良い
コミュニケーションについて改めて考えた2人は、2021年から応援ヒーロー「ガンバ李α(リーアルファ)」と応援忍者「ガイ」として活動しています。地域の行事に出向き、会場を盛り上げつつ、障害や病気で手助けが必要な人の目印「ヘルプマーク」を紹介。コロナの影響で減ったヒーローショーを楽しみに子どももたくさん集まります。
和宏さんは振り返ります。「私はもともと恥ずかしがり屋なんです。でも、表現はしたかった。仮面を着けるスーツアクターなら何とかなると、35年続けてきました。思うに、表現やコミュニケーションの形は人それぞれで良い。受け入れられる表現の幅が広いと助かる人は多いはず」。助けてと言えない人のためにヘルプマークがもっと認知されれば。そう願って活動してきました。「僕たちが注目されればもっと認知が広がる。最終的には『言われなくても知ってる』と、ガンバ李が消滅する社会が夢ですね」。
「障害=マイナス」ではない
障害はマイナスのことと捉えられがち。しかし、和宏さんと理恵さんにとって守李君は「手話の先生」です。「この子に親として認められたいから、しっかり対話したい。手話が必要なら、子どもでもきちんと向き合って教えてもらう。その姿を見せることが、親として大切だとも思っています」と和宏さんは話します。
守李君の障害は、親子でコミュニケーションを考えるきっかけになりました。ランドセルの耳マークは、聴覚障害者とのコミュニケーションを考えるツールに。そして、ガンバ李が生まれました。「『お父さんはヒーローだ』と思ってくれるように、父として応援ヒーローとして、守李とも社会とも向き合いたいです」。