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出所者と身元引受人が語る。自分と向き合うのに必要なものは「誰かの存在」

仮釈放の身元引受人に

「仕事としてではなく、人として関わっています。本音で話してもらうために私も自分をさらけ出します」。30年にわたりホームレス支援や更生保護※を行う「久留米越冬活動の会」の事務局長、奥忍さんはこう話します。

現在、刑務所を出所した男性、新田さん(仮名)の身元引受人になっています。新田さんは数年前、窃盗で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けました。執行猶予期間中に再び窃盗で逮捕され、2年2カ月の実刑に。令和2年に収監、満期まで3カ月を残し今年6月に仮釈放されました。

「仮釈放は身元引受人が居ることが条件なんです。母が引受人になるはずでしたが、直前に断ってきました。それを知った忍さんが引き受けてくれたんです」と新田さんは振り返ります。

同会の事務所で取材を受ける忍さん。「身元引受人になるのは、少し悩んだし、家族にも相談しました。でも、一旦決心したら、もう早く会いたくて。それから仮釈放まで何度も手紙のやり取りをしました」

再犯の背景にあった「孤立」

新田さんは「母から突然拒否され、正直裏切られたと感じたっすね。もう縁を切ろうかってくらい思いました」と話します。「仮釈放を返上してやろうか」とも。自暴自棄になるのを踏みとどまれたのは、刑務所で受けた回復プログラム「TC」の経験も大きかったそう。同プログラムは受刑者がグループになり、他人の事例を通して自分の罪と対峙。問題行動の解消や誤った思考への気づきを目指します。

再犯に至った背景を振り返り、新田さんは話します。「昔は弱みを見せたり頼ったりするのは、とにかく恥だと思いよったんです。実の父親から刃物を向けられた時も、金も家も無く友人の家に転がり込んだら『お前いつ出ていくの』と言われた時も、どんな時も「助けて」とは言わんやった。言っちゃいかんって感じかな、恥と思いよったけん。金がないのも恥。それを誰かに頼るのも恥。それなら窃盗の方がましやろって。当時は一人で抱えていっぱいいっぱいで、自分を振り返ることとかできんやったです」。ところが「TCでいろんな人と向き合って対話して、価値基準が徐々に変わったんです。それまで人の目ばっかり気にしとったけど、自分の問題や壁に向き合う大切さに気付いたかな。本当の恥は違うんやってことにも」。

後に母親に手紙を書き、本音を伝えたそうです。「裏切りだと感じたことを素直に書きました。それに対する返事で、母の葛藤を初めて知りました。この一件で裏切られるつらさも痛感したし、改めて自分の犯した罪を認識できたかもしれん」。

自分と向き合う時間、出所後も

越冬活動の会がホームレスや出所者などのために借りているワンルームマンションの一室。新田さんも同じ建物に入居しました。ある夜、「今日は心が苦しい。でも泣けない」と忍さんにLINE。数回のやり取りの後、しばらくして「泣けたよ」とメッセージが届きました。「苦しい時に苦しいと言える相手がいるのはありがたいことです」と新田さん。忍さんは「孤独な時間は何度も押し寄せる。その時間も大切」だと言います

出所後、同会が用意したワンルームに入居した新田さんは、刑期の満了後の自立に向けてアルバイトに励んでいます。仮釈放直前、忍さんに宛てた手紙に『まだあなたを信用できない』の言葉がありました。「会ったこともないとに協力してくれる。関係が駄目になって仮釈放が危なくなっても、正直な気持ちを伝えんと、って考えて」と話します。忍さんは「その言葉は私には、か弱い叫びに思えました。逃してはいけないサインと感じた」そうです。

面談では相談者の心に寄り添うことが目標。忍さんは本当の気持ちを出してくれるよう心掛けます。「でも、カチンと来たら言いますよ。『ムカつく!』って」。新田さんも苦笑

「刑期満期までの時間、とにかく話す時間を大切に」と考えている忍さん。毎日彼の出勤を見送り、帰宅時にも顔を合わせます。「人を通してしか自分のことが見えないことは多いと思う。自分を振り返る時間や本音を出せる関係は、厳しい現実と向き合う出所後にこそ必要なんですよ」。

人を通して自分を見る―。
TC、母親との関係、忍さんの存在。全てが新田さんにとって、自分と向き合う大切な機会です。(担当・フトシ)

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