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誰かが信じることで始まる一歩がある。育成型就労プロジェクト

働きたくても働けていない人は全国で1500万人。8人に1人の割合です。働きづらさを抱える人に伴走し、仕事を通じて「地域での暮らしを変える」ことを、企業と共に目指す取り組みが進んでいます。単に労働分野の話ではなく、これからの地域の在り方の話と捉えると―

「Work Magic ダイバーシティ育成型就労プロジェクト」は、特定非営利活動法人「わたしと僕の夢」が取り組む事業です。働きづらさを感じている人をサポートしつつ、企業にもアプローチ。その人に合わせた雇い方や仕事の切り出し方など「働く」在り方について対話・提案し、賛同企業を募ります。同法人代表の佐藤有理子さんは「誰も取り残されない地域にしたい。地域福祉に足りていないピースは企業。でも、とても重要な地域資源です」と話します。

「圧倒的な不足」という障壁

「一生懸命やっているのに、なかなか採用されない人は多い。子育て、病気、介護、外国人、年齢。あらゆることが障壁になりがちです。少しの工夫やサポートでクリアできるのに。その『あと一歩』を地域全体で手助けする時代だと思います」。
 佐藤さんは多くの人と面談する中で「圧倒的な不足」という障壁を感じています。「最近のケースは、妻と幼い子どもがいる20代の男性で職歴がほぼ無く、運転免許は失効。そんな切羽詰まった現状をよそに、面談ではくわえタバコで立膝ついて『チーッス』みたいな。私の方が勉強の時間でした(笑)」。背景にあるのは経験の圧倒的不足。これまで関わる人が少なかったのでしょう。「協力企業の社長にそのやり取りの動画を見せたら『こりゃなかなかやな』と苦笑いしつつ『分かった。一から教え込もう』とうなずいてくれました」。

佐藤さんは女性、特に母子家庭の貧困を解決したいという思いで同法人や人材派遣会社を興しました。現在約 7,000人が登録しているものの、マッチングまでたどり着 くのは1割程度。「誰かが取り残されるような地域は きっと先細る。そうなると産業も廃れる。これからの地 域や福祉のあり方を企業も一緒に考えるきっかけに」。 同プロジェクトへの思いです

置かれた環境が原因で、十分に成長や発達の機会が得られない。佐藤さんはこう話します。「貧困世帯の子どもにも同じ構図が見られます。生活保護を受けている家の子は、就職したら保護費が減るから家を出ないといけない。でも月10万円ほどの収入で一人暮らしは厳しい。そこに悪い誘いが来たらつい乗ってしまう。そうなると、あっという間に負の循環です」。

解決を急ぐだけが正解じゃない

令和4年12月上旬、同法人の事務所で女性が研修を受けていました。上田さん(仮名)は大学卒業後の1年間、就職活動はことごとく失敗。担当の久保花奈子さんは「彼女の慎重で真面目な面は違った印象を持たれがち」と分析します。上田さん自身も「話すのがとても苦手です。考えながら話そうとすると言葉が出てこない。なのに疑問を感じたら、つい相手の話を遮って質問しちゃうんです」。

「さあ、やってみよう!」と研修を盛り上げる久保さん(左)。この日は仕事における時 間や目標の捉え方、応対などがテーマ。代表 の佐藤さんは「人材派遣業で培ったノウハウ を生かしたい」と考えています

上田さんは運転免許を持っていません。久保さんは、自転車で行ける範囲を地図に書き、手あたり次第に事業所を探しました。「パソコン技術は高く、介護初任者研修の受講経験があったので、それを生かせればと」。同年11月に受けた面接で「社内外のコミュニケーションを学んでくれたら」と、責任者の前向きな返事を受け、冒頭の研修に至ったのです。「彼女はとても積極的。長い目で見てくれる企業と出会えれば大丈夫だと思いました。この度、事務補助の育成採用にこぎつけました。また一歩前進です」。

伴走役として久保さんは、短期に解決する道筋を追うことだけが正解ではないと考えています。「現状を悲観するのは簡単だけど、私は一緒に希望を持ちたいから」。

上田さん用に久保さんが作った研修資料「社会人と学生の違い」。人間関係や責任などの認識の違いをまとめました
就職の一週間前。職場の雰囲気に慣れるために、同社で体験就労に励む上田さん(左)。久保さんが横で見守ります

時給750円のバイトが原点

同プロジェクトは佐藤さんの起業時から20年越しの想い。「起業のきっかけは時給750円の事務のアルバイトでした。志望者は多く、事務経験がなかった私は半ば諦めていました。ところが、なぜか採用されたんです。入社後上司が、採用理由を『あなたに暗さを感じて、暮らしを心配した』と話してくれました。その頃は確かに苦しかった。会社が私にチャンスをくれたと思っています。この事業の原点です」。

WEBアプリを駆使してチラシを作る上田さん。「そんなことできるの?」と久保さんも興味津々

佐藤さんはこの取り組みで人と企業の「底力」を引き出せると信じます。「誰かが信じないと力を出せない人は多いんです」。損得だけではなく、踏み出す勇気を後押しできる。地域で共に暮らす人と企業の新たな関係創りが進みます。
担当:フトシ

1月中旬の金曜日。上田さんは、待ち合わせの10時前に事業所へ。硬い表情で説明を受け、与えら れたPC入力作業を開始しました。2時間の勤務初 日が終わると緊張から解き放たれて晴れやかに。 「パソコンでの作業は集中してできるので、向い ているかもしれません。もっと早く作業が進むよ うに自分なりに工夫してみたいと思います」と意 気込みを話していました

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