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外国人が暮らす課題ってどこにあるの?文化芸術で実現したい共生社会

今回のテーマに向き合うきっかけは、昔に取材した人からの電話でした。「昨日の夜ね、隣の居酒屋で働いている外国人が外で何か叫んでいたの。夜中だし突然で怖かったけど、よく考えると、この人は誰にも言えないつらい気持ちを抱えて、こらえきれなくなったんじゃないかな。私は外国から来た人が、どんな気持ちで暮らしているのか、結局何も知らないなって気付いたの」―

「外国人が抱える課題と言うけど、課題は私たちの中にあるのかもしれない―」。
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 久留米シティプラザは良質な文化芸術を届けるためにさまざまな催しを行っています。今、力を入れている取り組みに、「文化芸術を生かした社会包摂事業」があります。子どもや若者、高齢者、障害者、そして外国人など、各々の違いをそのまま受け入れる社会に近づくのに、演劇など文化芸術の力を生かそうというものです。
 令和5年4月、「北野町で会いましょう」というプログラムが始まりました。歌とダンスを外国人と日本人が一緒に楽しみ、出会いやコミュニケーションのきっかけにします。担当の宮﨑麻子さん(久留米シティプラザ事業制作課)は「人の意識や行動は簡単に変わらない。だから3年計画で地道に」と話します。

担当の宮﨑さん(中央)。現状では災害時に情報が十分に伝わらない可能性があります。それでも、実習生本人 たちは仲間とのコミュニティで日常が完結するので「意 外と困り感はないと言っている人もいました」と宮﨑さ んは話します。避難所に来る外国人の少なさにも課題の 一端が。「やはり十分に包摂(包み込むこと)されてい ないと思います」

課題は「接点を見い出せない」

準備は令和4年度から。企画のために、農業の技能実習生が多く暮らす北野町で聞き取り調査を行いました。フィリピン出身が多く、日常的に歌やダンスに親しんでいることも分かりました。そこからプログラムの内容を決定。「開催は作業が休みの日曜。買い物にも出かけるそうなので時間は1時間に。終わった後の交流の時間を大切にしました」。

受付でテープに名前を書き、服に貼り付けました

調査で課題も見えてきました。外国人との接点を見いだせない地元住民の現状と、その外国人の皆さんの孤立です。「顔合わせの時、日本人は名前を言うんですが、『こちらが実習生の皆さんです』と一括りに紹介されることも。一人一人、名前で呼ばれないと、個人の認識は生まれにくい。この辺に外国人の暮らしにくさの根っこがあるような」と宮﨑さんは感じています。

接してみると意外と話せる

6月18日に開かれたプログラムの「うた編」には、実習生13人、久留米大学の学生11人が参加しました。進行は、劇作家・演出家の穴迫信一さんと俳優・音楽家のかみもと千春さんです。進行は英語と日本語で説明。参加者同士が打ち解けるため、1時間のうち50分をレクリエーションに使いました。誕生日順に一列になったり、好きな食べ物や季節でグループに分かれたり。英語や日本語、身振りも交えてコミュニケーションを取り合いました。

会場はコスモすまいる北野。実習生と学生は、 他己紹介に向けてお互いのことを伝え合います。実習生の中には日本語が話せる人もいれば 日本語の聞き取りに苦戦する人も。それは学生も同じ。それでもある 程度の意思疎通はできて、徐々に隔たりを解消していきました

休憩後、実習生と学生がペアになり、名前、年齢、好きな食べ物などを伝え合いました。みんなの前でペアごとに相方を紹介。ユニークな紹介には笑いが起こっていました。最後に全員で合唱。参加者の多くが隣の人と笑顔を交わしながら歌っていました。穴迫さんは「コミュニケーションの壁を下げるのは、感覚的に日本人の方が時間がかかるような気がします」。

ビートルズの「Let It Be(レットイットビー)」 をピアノの伴奏で歌いました
しばらくは実習生と学生に分かれていましたが、徐々に境界はあいまいに。日本人同士でも打ち解けるのに時間がかかると言 い「外国人とだからいうわけでもなさそうです」と穴迫さん

参加した学生の一人は、会場に来るまで緊張していたと打ち明けました。「コンビニで外国人を見かけても、話すこともないし」。普段関わる機会の無さがあらわに。しかし、ものの1時間でスマホで自撮りをし合い、「食事に来てって言われた」「インスタでつながった」など友達のように会話が弾みました。「意外に普通に話せるって分かって、そこから楽しくなりました」。

話さなくても「想像し合える」

6月25日のプログラムは「ダンス編」。実習生14人、学生7人。はじめは一人一人が体を動かし、だんだんと集団の動きへ。近くの人と手をつないでは離れ、別の人とつなぐ。ペアになって背中で押したり手を引き合ったり。進行を務める振付家の山田うんさんは、ダンスは言葉を使わない分、動きや力から相手を感じ合うことができると言います。「小さい子は十分な言葉を持っていないけど、コミュニケーションができている。体を使った意思疎通は、どこかそういった懐かしさがあるんじゃないかな」。

冒頭から音楽をかけ、詳しい説明もなく始まったダンス編。進行役の動きを真似しつつも思い思い に体を動かすと、自然に笑顔が生まれていました


手のひらを合わせて力を掛け合う参加者の2人。互いに、相手の動きを目線や表情などで想像しないとバランスが取れません。言葉 だけがコミュニケーションではないことを物語っています

ピントがずれると「一括り」に

宮﨑さんは、街に劇場がある価値をみんなで共有したいと願っています。「観劇や文化活動の発表でプラザに来る人は一部。文化芸術は交流の促進や知らない誰かとつながるきっかけにも。そういうことを多くの人に伝えたい」。劇場を飛び出して、地域や人の関係に変化をもたらす。挑戦は続きます。

ダンスが終わると、自然と車座になりおしゃべりが始まりました。実習 生と学生は最初からこの距離感 。打ち解け合う方法は多様です

外国人をテーマに語るとき「経済を支えている」、「労働力として欠かせない」という面に注目されやすい。でも、そのままの目線を暮らしに向けてしまうと、外国人という「カテゴライズ」に。ピントがずれると一括りになり個人を見落としがちです。まずは隣人として名前を認識する。人に焦点を合わせるきっかけを、日常に生むことから。 
(担当・フトシ)

Today’s program is so fun. I never thought to meet some
new friends and have some fun events. I felt I relieved
and feeling relax.
楽しかった。新しい友達に会うなんて、楽しい時間を持てるなんて、考
えたこともなかった。気持ちが落ち着いて、楽になったような気がしま
した。

うた編に参加した技能実習生の感想―