「死に向き合うことは生き方を考えること」。だから今、人生会議を
「人生会議」という言葉を聞いたことはありますか。この取り組みを知ってもらうため、保健所健康推進課がポスターを発行。私も制作に携わりました。人生会議とは何か。なぜ知ってほしいのか。写真やロゴ、コピーの背景となったエピソードなどを通して、関係者の思いを伝えます。
人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)とは、人生の終末期、「死」に直面する時、どこでどう暮らしたいか、どんな治療を望むかなどを大切な人と話し合おうというものです。病気や事故など、終末期の迎え方はさまざま。その時に会話ができるとは限りません。なので話せる時に、ということです。
終末期に寄り添う人に取材
ポスター作りに関わるきっかけは、健康推進課の古賀悠介さんと成沢優子さんからの相談でした。「医師会と一緒に人生会議を呼び掛けるポスターを作りたいので、制作に協力してくれませんか」。話を聞くと「これはグッチョのネタになる」と直感。本紙のテーマにする前提でポスター作りに関わることになりました。
令和5年11月、3人で企画会議をスタートしました。制作方針を決めるために、人生会議の普及活動に取り組む在宅ホスピスボランティア「NPO法人結の会」に取材に行くことになりました。終末期を迎えた人に関わり続ける団体に話を聞くことは、方針を決めるのに欠かせないと考えたからです。
打ち明けると、私はこのテーマと距離を置きたい自分に気づいていました。なので、同会の取材で聞いてみたいことがありました。「死に向き合いたくない人に、どのように人生会議を勧めるのですか」と。
自身の後悔を活動に生かす
話をしてくれたのは、堤千代さんと福田香代さん、小野さよ子さん。看取りの経験がある人はそこで得た事やできなかったこと、その時の思いを活動に生かしています。
私の質問に堤さんは「一つの手法として『もしバナゲーム』があります」と話します。一般社団法人ⅰACPが開発した『もしバナカード』を使ったゲームです。死が迫った時に「どんなケアを望むか」や「誰にそばにいてほしいか」といった言葉が書かれていて、自分にとって何が大事かを考えることができます。「『終末期』や『死』のハードルを下げるゲームです」。同会はこれまでいろんな所で体験の場を開いてきました。「どこでやっても『楽しくも真剣』という雰囲気。死に直面すると誰でも混乱するから、そうではない時に考えてほしい」と言います。
亡くなる時まで日常は続く
「そして、もう一つ。死に向き合うことは『どう生きるか』を考えることだと伝えています」。堤さんは実際に関わった女性のことを明かします。「余命が1カ月ほどになり、彼女は家財などを整理していました。ある日、洋服を処分する時に『ネットで売ろう』って言って、自然にお金を得ようとしていたんです。これって『亡くなる時まで日常は続く』ということだと私は思います。人生のしまい方をどうするかという、生き方の問題なんです」。ポスターの制作中、この話は私の心に残り続けました。
テーマ決めで紆余曲折
結の会の取材を経て、保健所と医師会とポスターの方針を話し合いました。家で思い出の写真を見ている人の背中とか、在宅ホスピスケアを受けている人と家族の風景とか。いろんな案が出ては消えました。ちょうどその頃、健康推進課の保健師・伊藤葉子さんの母親(81歳)が転倒して骨折、さらに新型コロナに感染し肺炎に。一気に寝たきり状態になるという出来事が起こりました。
保健師の実話を題材に
伊藤さんに詳しく聞くと、「典型的なパターンだけど、ここまで転がるように状況が変わるとは思っていなかった。『とんかつ食べに行きたいね』とか『近所の衣料品店に買い物に行きたい』って言っていたのに伸び伸びになってて」と後悔を口に。「こんなことがあって改めて話しておかないといけないなって思いました。今からでも、できることはたくさんあるので」。そう話す伊藤さんを見て、このエピソードをそのままポスターにできるのではと感じました。伊藤さんに提案すると快諾。これで方針が決まりました。
伊藤さんと家族を入院中の病室で撮影し、エピソードを添える。キャッチコピーは「お母さんどうしたい?今、話し合おう」。寝たきりになった母の希望を知りたいという家族の気持ちを表しました。写真の下の「人生会議」のロゴ(とまでは言えないが)に添えた一節は結の会への取材から得た言葉です。
令和6年8月、ポスターが完成しました。医療機関や薬局、介護事業所など1000カ所以上に掲示されます。
伊藤さんと家族は今、母のこれからの過ごし方を話し合っています。家か施設か。そして外出できるようになったら「孫も一緒に杖立温泉行こうね」と。 (担当・フトシ)
ポスターのデータ(PDF)はこちらからダウンロードできます。下記ページに入ったら下部までスクロールしてください。