青パト×フードドライブ。防犯から生まれた支え合いで校区に広がる善意
久留米市では、各小学校区で防犯活動として青い回転灯のパトカーが走っています。通称「青パト」。金丸校区で、青パトから始まった支え合い活動があります。人との接点から新しい気づきが生まれ、関わる人の意識に変化も生まれました。
青パト見て「使えたらいいな」
「青パトを活用してフードドライブをできませんか」。金丸校区で暮らす樽美岸惠さんの提案をきっかけに、フードドライブ活動「ワンダフルデイ金丸」は始まりました。困っている人に食料や生活用品を配ります。
きっかけは、樽美さんがコロナ禍の時に読んだ新聞記事でした。ひとり親家庭、子どもの貧困、雇い止め。記事を眺めながら「困っている家庭や子どものために何かできないかな」と。「はじめは友人と二人でマイカーを使おうと思っていました」。
ある日、「これが使えたらいいな」と、樽美さんは校区で走っている青パトを見てひらめきます。まちづくり振興会に相談すると、同会の山口好基会長は「良かことやね」と快諾。青パト活動を担っている防犯協会の協力の下、早速、運営体制が組まれました。令和3年12月に活動が始まり、物資の受け取りに青パトが活用されています。「今は11人が関わっています。正式な校区の活動になったことで、防犯協会の会長をはじめ会員の皆さんが運転や運搬などを担ってくれて。それに、会議室を使えたりメンバーに手当を出せたり。活動の広がりにつながっています」。
住民からの善意が重なる
活動は毎月第一・第三金曜。午後に久留米大学御井キャンパスへ青パトを走らせます。ここにフードバンク福岡サテライト久留米が配布拠点を置いています。そこで食料や物資を受け取ると、車に積み込み、コミュニティセンターへ。会議室で一世帯分ずつ袋に仕分けていきます。ワンダフルデイに登録している利用者は38人。第一週は高齢者が中心で、取りに来られない人には配達スタッフが手分けして届けます。防犯協会会長の舩越輝雄さんは「安否確認や見守りにもつながりますよ」と話します。第三週はひとり親世帯が中心。仕事帰りの人が17時頃から受け取りに来るので、仕分けスタッフが集合する16時からの1時間は大忙しです。
樽美さんは、活動を始めて校区内の「善意の広がり」を実感しています。「活動を知った校区内の配送会社や卸業者さんが、箱が痛んで売れない商品や売れ残った冷凍おせち料理を寄付してくれます。家庭菜園でとれた野菜を持ち込んでくれる近所の人もいて、フードバンクからの食材に校区の皆さんの寄付が加わっているんです。物の充実はもちろんだけど、善意の集まりがうれしいです」。
名前もうろ覚え。だから話せる
第三金曜の11月17日。17時を回ると一人、また一人と受け取りに来ます。「お久しぶり。あら、髪切ったね?」と笑顔で出迎える樽美さんですが「私、名前を全然覚えられないんです」と、苦笑いしながら打ち明けます。それでも、受け渡しの時間が好きだと話します。「いろんな人がぽつぽつと自分の事や困っていることを打ち明けてくれるんです。近い関係の人じゃなくて、私みたいに名前もうろ覚えくらいの存在の方が話しやすいこともあるのかも」。一方、なかなか出てこられない人も多いという課題も。防犯協会の舩越さんも「活動のおかげで『あそこも独居のごたるよ』とか、いろんな情報が得られる。大事な接点ですよ」。
新たな接点が生む意識
活動はさまざまな気づきにもつながっています。樽美さんは「恥ずかしながらひとり親や貧困家庭という言葉に、勝手にマイナスな印象を持っている自分に気付いたんです。会うと私なんかよりきらきらした人が多い。生活感や状況はまちまち。『こういう人』って括ってしまう危うさを感じました。だから、この活動の対象者は決めすぎないようにしたいと思っています」。長年、青パトに携わる舩越さんにも変化が。「巡回で一人でうつむき加減で帰っている子を見ると、どんな暮らしをしてるのかな、さみしい思いをしてないかな、と思うようになって。声をかけることが増えました」。
青パトからのフードドライブ活動は、いろんな人が関わりながら拡大中。新たな接点をきっかけに、互いの暮らしに意識が向き合うという好循環を生んでいます。
(担当・トヨフト)
市のホームページで、レイアウト版のグッチョ(PDF)を公開しています。