人とのつながりが「生きる糧」。おじいちゃんがつくるイモを通して思い出した、ケースワーカーとしての想い
「知り合いが居らんやったら、もう早よ死んでも良かと思うてしまいますもん」。取材の時、林敬一さんはこう話しました。【グッチョ】の過去記事「関係性にグッチョデザイン賞」で取り上げた焼きイモ企画に、サツマイモを提供してくれたのが林さんです。背景には、いろんな人のつながりがありました。
きっかけは環境部の職員
私は生活支援課で働くケースワーカーです。生活保護を出すだけでなく、生活に困っている人を幅広く支援しています。私が林さんの担当になったきっかけは、環境部に異動した先輩職員からの電話でした。「最近仕事で関わったおじいちゃん、生活が苦しいみたい。はじめは結構渋っていたけど、生活支援課に相談するように話したから、よろしく」。
林さんは一日の大半を畑で過ごすほど、畑が命のおじいちゃん。訪問するたびに、「朝5時から畑におるけん、手がかじかんどる」とか「今日はナスば収穫せやん」と言い、忙しくも充実した日々を送っています。林さんは作った野菜を人にあげて、喜んでもらうのが生きがい。何かに夢中になれるって素敵だな。
喜ぶ姿に「私もうれしい」
11月上旬、NPO法人「わたしと僕の夢」に通う子どもたちがゴミ拾いの後に焼きイモをする企画が持ち上がり、同僚がイモを提供してくれる人を探していました。すぐに林さんの顔が浮かび、急いで会いに行きました。「子どもたちにサツマイモを分けてほしい」とお願いすると、快く応じてくれました。焼きイモ企画の当日、「おいしい」「このイモ甘ぁい」と頬張る子どもたちに、大人げなく「やろ?林さんが作ったイモよ」と自慢して回る私。作ってもいないのに、誇らしい気持ちになりながら。
後日、林さんに子どもたちからのお礼のメッセージを届けました。嬉しそうに微笑みながら読む姿を見て、「人と人がつながる喜び」を再認識しました
つながりがあるから、いごく
ベテラン農家のように見える林さんですが、実は畑を始めてまだ2年。数年前に妻と死別して自暴自棄になりかけていた林さんに、友人が「農業をしてみたら」と畑を貸してくれたのだそう。「年を重ねるとつながりが減っていく。だから意識して知り合いばつくるとです」。畑を通じて新たな友人もでき、みんなに助けられて暮らしていると林さんは言います。「周りがあれこれとせやんことば言うてくれる。それが日々の目標になっとります。やけん、いごききる(動ける)間はいごくよ」。
林さんの話、イモを食べる子どもたちの姿、そして、関わった職員の顔を思い浮かべながら、人はつながりから「いごく」理由を見出し、喜びを感じるのだと思い知らされました。日々の業務に追われて大切なことを忘れてしまっていた私。ケースワーカーとして働き始めた頃は、家族や社会と切り離されて、独りぼっちだと感じている人にじっくりと向き合い、寄り添いたかったはずなのに。
「来年は子どもたちがイモ掘りからできるように、畑を準備しよるよ」と笑う林さんを見て、これからも人と人とがつながるお手伝いをしていこうと思えた、素敵な出来事でした。
(担当・ナカムライチ)